遠近感漂う描写で緻密な赤絵作品を生み出す見附正康
淡い色彩と細かな文様で白磁を彩る齋藤まゆ
パラミタ陶芸大賞展の第9回展(2014)と第10回展(2015)で
それぞれ大賞を受賞した研修所卒業生二人の対談インタビュー
---九谷焼技術研修所(以下研修所)ではどのようなことを学びましたか?
見附:研修所では造形力や色彩センスなど、制作の基礎となる部分を学びました。現在僕は絵付に専念して制作していますが、当時はロクロ実習や様々な絵付けの技法など、幅広い技術を学んだ経験が今でも役立っています。
齋藤:私は卒業後、弟子入りせず、業界で働いた経験もないので、研修所で学んだ内容は私にとって大変大貴重な経験です。今でも時々研修所時代のノートを引っ張り出してきて、試行錯誤しています。
---卒業後はどのように活動していましたか?
見附:僕は卒業後、アルバイトをしながら研修所講師の福島武山先生に10年間師事して、その後独立し、2006年には伝統工芸士になりました。人のご縁に恵まれて、現在は作家として国内外で様々な展示会に出させてもらっています。
齋藤:私の制作活動を一言で表すなら「好きにやってきた!」です。卒業後は東京の実家に戻って、アルバイトしながら家で制作していました。その後、卯辰山工芸工房に入り、修了後から現在に至るまで金沢で作陶しています。
---2014年は見附さん、2015年は齋藤さんがパラミタ陶芸大賞展で大賞を受賞されましたね。
(※パラミタ陶芸大賞展=三重県のパラミタミュージアムで毎年開催される陶芸の展覧会。国内の美術館・ギャラリーなどの推薦によって選ばれた出品者が各々の作品を展示し、会期中の来館者投票により大賞が決まる。)
齋藤:受賞が決まったときは、嬉しさと同時に身が引き締まるのを感じました。今後私は「パラミタ陶芸大賞受賞者」として見られる、この賞に値する作家にならなければと。
見附:同感です。良い意味でのプレッシャーを常に感じるようになりました。今後の展示においても「やっぱり良い作品だな」と言ってもらえるようになりたいです。この展覧会では良いご縁をたくさん頂いたので、これからも一点一点、丁寧に制作していきたいと思います。
---普段はどのような作品を作られているのですか?
まずは見附さんからお伺いします。
---赤絵細描の細密な筆遣いがご自分の性に合っていたのですね。
見附:そう思います。幼稚園のときから習字をしていたので、もともと筆を扱うことも好きでした。
---見附さんの作品は幾何学紋様のような柄が印象的ですが、モチーフは何ですか?
見附:特に固定のモチーフはありませんが、遠近感のあるものが好きなので、例えば海外旅行先で見た建築物や天上画などを参考に描くこともあります。今後もいろんなものを描いてみたいです。
---齋藤さんはどのような作品を作られていますか?
齋藤:私は小紋(伝統的な細かい連続模様)を取り入れながら、白磁でオブジェ作品を制作しています。
---なぜ小紋を?
齋藤:研修所卒業後から今まで、日用食器から美術作品へと作る物の形態は変わりつつも、ずっと小紋を描いて制作してきました。その経験が今の作風に繋がっているのだと思います。延々と小紋を描き続けるうちに、自分の中で自然とアレンジされていきました。また、白磁に特にこだわって制作した時期もあり、白磁と紋様の調和については強く意識しています。お客さんからは「伝統的な紋様に、斬新な形が素敵な作品ですね。」と言っていただいたこともありました。
---お二人とも作家としてご活躍されていますが、この道で生きていくことに不安はありましたか?
齋藤:私はOLを辞めて作陶の道を選んだので、もう心は決まっていました。一般社会に属することよりも、自分がどんな生活を送りたいかということに関心があって、ものづくりの道を選びました。
見附:今でも全く不安がないわけではありませんが、毎日制作できて幸せです。世の中自分の希望通りではない仕事に就いている人も多い中、好きなことで生きているっていうのは、本当にありがたいことだと感じます。
齋藤:何より、制作中に「このときのために自分は生きている!」と感じるくらい幸せな瞬間があるのが大きいです。
見附:それ、すごくわかります!だから制作をやめられないのです。
齋藤:本当にその通りです。そして、作ることが自分を育ててくれます。
---今までの活動において、転機になった出来事はありますか?
齋藤:私の場合はまず、実家の制作環境にだんだんと不安を感じるようになったのが作家人生の始まりです。実家はマンションで、そこで窯焚きもしていました。でも、周囲にお住まいの方に気をつかったりして、思い切った作陶ができなくなってしまったのです。それで、この先本気で制作を続けるのか改めて考えて、一種の腕試しとして卯辰山工芸工房を受験しました。ここに受かったら本気で作家としての人生を歩もうと決めて挑み、合格し、金沢に移り住んで作家活動を始めました。その後も様々な出会いに恵まれ、鍛えられ、ここまで来ることができました。そういった経験を全て含めて、今の自分の生活が成り立っています。
---見附さんはいかがですか?
見附:僕の場合は、何か一つの大きな転機があったというよりも、多くの方々との出会いの連鎖によって、ここまで来ることが出来たと思っています。まず、研修所で福島先生に出会えたことはとても大きいですね。それからギャラリーの方やお客様など含め、様々な方々と出会いうことで次の展示会出品が決まり、それが制作の道筋となっています。例えば、今ニューヨークの美術館( Museum of Arts and Design)で展示させていただいているのですが、それは2012年に金沢21世紀美術館の展覧会に参加したのがきっかけでした。
---「出会いが大切」ですか。
齋藤:見附さんに同感です。私の場合も今思えば、両親の応援であったり、人の縁であったり、制作を続けていける環境にあったのは出会いに恵まれていたおかげだと思います。金沢に住み始めたとき、タイミング良く作陶に適した一軒家を見つけられたことや、アルバイトと折り合いをつけつつ制作を続けてこれたことなど、様々な人やチャンスに出会えたから実現できたことばかりです。自分が求めていたものは、自分の努力と、多くの方々との出会いがもたらしてくれたのだな、と心から感じています。
---最後に、これから研修所で学んでいく後輩にメッセージをお願いします。
齋藤:研修生である間に出来る限り多くのことを試し、作品を作るための引き出しを増やして下さい。私の制作のベースは研修所時代に学んだことによって成り立っています。その経験は絶対に将来の役に立ちますよ。
見附:研修所は様々な技術が学べて、充実した施設だと思うので頑張って勉強していただきたいです。僕の場合は、研修所で絵付けと成形の両分野を学べたことが、今とても役立っています。色んな分野にチャレンジして、その中から卒業後にやりたいことを選べばいいと思います。
齋藤:誰しも先行きの不安を感じることはあると思いますが、自分が納得できるやり方で、作る喜び感じてほしいと思います。
見附:皆さんも是非、自分が「好き!」と思えるものを探して下さい。
見附正康 | ||
石川県加賀市出身 |
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1997年 | 石川県九谷焼技術研修所卒業 福島武山氏に師事(2007年工房を構え独立) |
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2000年 | 伝統九谷焼工芸展 技術賞(2005年、2009年も受賞) | |
2006年 | 経済産業大臣指定伝統工芸士認定 | |
2007年 | 日本陶芸展入選(同、2011年) 個展 オオタファインアーツ(東京) (同、2009年) |
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2010年 | 第1回金沢・世界工芸トリエンナーレ 金沢21世紀美術館・リファーレ(石川) | |
2011年 | REAVALE NIPPON PROJECT-中田英寿、現代陶芸と出会う茨城県陶芸美術館(茨城) | |
2012年 | 工芸未来派 金沢21世紀美術館(石川) | |
2013年 | Beyond the Surface OTA FAIN ARTS(シンガポール) | |
2014年 | 第9回パラミタ陶芸大賞展 大賞受賞 パラミタミュージアム(三重) 日本・スイス国交樹立150年周年記念美術展 Logical Emotion-日本現代美術展- ハウスコンストルクティヴ美術館(スイス) (2015年 ポーランド、ドイツの美術館を巡回) |
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2015年 | japanese kogei/FUTURE FORWARD MUSEUM OF ARTS AND DESIGN(アメリカ・ニューヨーク) |
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コレクション | 石川県立美術館、金沢21世紀美術館、石川県九谷焼美術館、パラミタミュージアムその他 |
齋藤まゆ | ||
東京都出身 |
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1999年 | 石川県九谷焼技術研修所卒業 | |
2008年 | 卯辰山工芸工房修了 個展(Ecru+HMギャラリー/東京・銀座) 卯辰山工芸工房修了作品展 工房賞(21世紀美術館/石川・金沢) 第37回 欧美国際公募「スペイン美術賞」展 入選 おしゃれメッセ2008 「かなざわごのみ:ジュエリー・鏡・宝箱」展 出品 |
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2009年 | 神戸ビエンナーレ2009 現代陶芸コンペティション 入選 おしゃれメッセ2009 「かなざわごのみ」展 器出品 |
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2010年 | 「フタのある形 PartⅡ」(ギャラリーヴォイス/岐阜・多治見) SICF11出展(スパイラル/東京・表参道) |
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2011年 | 個展「mind」(STUDIO plusG gallery/石川・金沢) | |
2012年 | 「わんの形」展(ギャラリーヴォイス/岐阜・多治見) 「Porcelain Fever~現代作家と今の九谷~」展(金沢アートグミ/石川・金沢) 「齋藤 まゆ ~白磁 色織絵のかたち~」展(LIXILギャラリー/東京・京橋) |
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2013年 | 第54回石川の伝統工芸展 入選 金沢西病院 陶壁制作(石川・金沢) 「やきものの現在(いま)―土から成るかたちPartⅦ」 (ギャラリーヴォイス/岐阜・多治見) |
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2014年 | 第37回 伝統九谷焼工芸展 入選(2007,8,10) 第70回 金沢市工芸展 入選(2007,8,10) 「トッテのある形」展(ギャラリーヴォイス/岐阜・多治見) 「陶芸現象」展 (茨城県陶芸美術館/茨城) 個展(能美市九谷焼資料館/石川) 「世界とつながる本当の方法 ~みて・きいて・かんじる陶芸~」展 (岐阜県現代陶芸美術館/岐阜) |
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2015年 | 第10回パラミタ陶芸大賞展 大賞(パラミタミュージアム/三重) |