世界農業遺産「能登の里山里海」ライブラリー
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能登野菜 (2ページ目)

3)特徴的な知恵や技術

A能登特産野菜

・能登かぼちゃ(のとかぼちゃ)

 40年以上前、珠洲市の生活改善グループが家庭菜園で栽培したのがきっかけで、農家が自給用に栽培を始めたものを、JA珠洲市が関西市場に出荷し、評判を得て栽培が広まった。関西市場では、おいしいかぼちゃのブランドとして定着している。 冷涼な気候の中で時間をかけて完熟させるため、色鮮やかでホクホクと甘いかぼちゃができる。収穫期前には、必ず試し切りをして完熟を見極めるほか、収穫後は、風乾による追熟も行っている。栽培品種はえびすで、出荷時期は7月〜8月と10月〜12月(抑制)。九州と北海道の端境期に出荷する。

 

 

 

 

 

 

 

 

  写真 能登かぼちゃ

 

・能登赤土馬鈴薯(のとあかつちばれいしょ)

  赤土の土壌が広がる能登の丘陵地で栽培され、色が白く、夏が涼しい気候のため、デンプンが良く蓄積されて、デンプン価が高く、ホクホクのおいしいばれいしょである。明治時代に、能登4郡で多く栽培されていた記録が残るが、その後、激減した。 昭和60年代から、再び本格生産に取り組み、現在は関西方面へも出荷している。栽培品種は男爵。栽培場所は、中能登以北の赤土・粘土質の地域。出荷時期は7〜8月。郷土料理としては「いもだこ」「いしる鍋」などがある。


 

 

 

 

 

 

 

  写真 能登赤土馬鈴薯

 

・能登山菜(のとさんさい)

 能登は丘陵地が多くそのほぼ全域が里山であり、夏涼しい海洋性気候が生育に適しているため、ふき、わらび、ぜんまい、うど、かたは、あさつき、せんな、こごみ等の山菜が豊富に採れる。主として、管理された里山で適量が収穫されているが、ふき、わらび、うど、かたはなどは、自然に近い状態での栽培も行われている。また、山菜の収穫・栽培は、里山の生態系保全にもつながるとの認識も深まっている。出荷時期は1月〜6月(品目により異なる)で、中能登以北の山野で自生または自生地から種子または株分けしたものに限る。


  

 

 写真 うど                 写真 かたは

 

・能登白ねぎ(のとしろねぎ)

 能登半島のほぼ中央部に位置する七尾市・中能登町を中心に、主に水田転作で栽培されている。葉の白い部分を太く長くするため、何度も土寄せを行うなど丹念に育てられ、根から葉先までしっかりとハリがあり、ほのかに甘いのが特徴。ビタミンB1の吸収を促し、血小板の凝縮性を抑制するアリシンやビタミンCのほか、消化促進と抗菌作用がある硫化アリルも含む。栽培場所は、能登全域。出荷時期は、8月上旬〜12月。石川県エコ農産物(石川県が認定するエコ農業者が、たい肥等による土づくり、化学肥料・農薬の低減技術を一体的に導入して生産した農産物)に認定されている。

 

・能登すいか(のとすいか)

 昭和27年〜28年頃から栽培が始まり、羽咋市以北の砂丘地、壌土、赤土地帯で栽培されている。星きらら、祭ばやしなど、地域の土壌条件を活かした品種を、日較差のある地域でじっくり育てるため、シャリ感、果汁、甘味との3拍子揃ったすいかに仕上がる。

 

 出荷前には、試し切りをして糖度11度以上を確認するほか、生産者名のシールを貼り、トレーサビリティーへの対応にも取り組んでいる。冷やしてそのまま食べるほか、すいかシャーベットやすいか糖としても利用されている。出荷時期は、7月上旬〜8月中旬。生活習慣病の予防効果が期待される赤い色素リコピンを含み、利尿作用を助けるアミノ酸シトルリンを含む。


 

 

 

 

 

 

 

  写真 能登すいか

 

・能登金時(のときんとき)

 早掘りで食味が良好として定評がある。ウイルスフリー苗が導入されているほか、マルチ栽培のため、植え付け時の防除以外ほとんど農薬を使用しない。また、さらなる品質や食味の向上をはかるため、平成20年度には、石川県農業総合研究センター砂丘地農業試験場(現:石川県農林総合研究センター砂丘地農業研究センター)が選抜した優良系統が本格導入された。デンプンが豊富で、ビタミンCや食物繊維を多く含むほか、便秘に効果があるヤラピン(切ると出る乳白色の液)も含む。ヤラピンは、食物繊維との相乗効果により便秘予防に効果がある。出荷時期は8〜10月。


 

 

 

 

 

 

 

 

  写真 能登金時

 

・能登ミニトマト(のとみにとまと)

 昭和63年に輪島市旧門前町において栽培が開始され、その後、穴水町や輪島市、珠洲市など奥能登全域に広がった。栽培方法は、水稲育苗ハウス利用などによる雨よけ夏秋栽培。栽培履歴の記帳を徹底するなど、安心、安全な野菜づくりに取り組んでいる。栽培品種はキャロルパッション。出荷時期は、5月下旬〜11月。全農の出荷基準による完熟品のみが、県内をはじめ京阪神市場へ出荷されている。


 

 

 

 

 

 

 

  写真 能登ミニトマト

 

・能登長なす(のとながなす)

 皮が柔らかく、風当たりが強いと擦り傷ができてしまうため、畑の周囲に防風ネットを設置するなど、栽培管理に十分な注意を払って黒くつやのあるなすに仕上げている。 柔らかくて食味も良いため、市場から高い評価を得ている。栽培場所は、志賀町・羽咋市・宝達志水町。出荷時期は、7月上旬〜10月中旬。


能登長なす

  写真 能登長なす

 

・能登だいこん(のとだいこん)

 主に羽咋市、志賀町の海岸沿いの砂浜畑や山間部の赤土地帯におけるすいかの後作として栽培されている。白くすんなりした外見とみずみずしい食味が特長で、関西を中心に出荷されている。出荷時期は、10月中旬〜11月下旬。


能登だいこん

  写真 能登だいこん

 

・能登ブロッコリー(のとぶろっこりー)

 海岸近くの平坦部から標高250mの山間部まで、里山里海に囲まれた多様な環境の中で栽培されている。 この環境を最大限活かすため、植え付け時期や品種選びなど工夫を重ねている。栽培場所は、能登地区。出荷時期は、5月中下旬〜7月上旬・9月中下旬〜12月下旬。


能登ブロッコリー

  写真 能登ブロッコリー

 

 

Bその他の能登の主な野菜

・大五トマト(能登町)
・いちご(能登町)
・自然薯(中能登町・輪島市)

・キャベツ(穴水町・能登町)
・はくさい(穴水町・能登町)
・ほうれんそう(輪島市)
・たけのこ(輪島市)
・きのこ類(能登町・珠洲市)

 

4)生物多様性との関わり

  里山の多様な生態系の維持・保全にとって、山菜、自然薯(じねんじょ)、きのこ類などの適切な採取や栽培など、里山の持続的な利用は必要不可欠である。また、里山の農林業の活性化は、里山が見直され、整備される機会の増加にもつながっていく。

 

 食の安心、安全に対する近年の消費者意識の高まりを受け、「能登野菜」は、ブランド化にあたり、化学肥料・農薬の低減による栽培の振興も目指している。ブランド化による高価値・高収入の野菜づくりは、就農者の増加、若い担い手の確保、耕作放棄地の解消、さらには、生態系の維持・保全にもつながる。

 

 一度栽培が途絶えてしまった伝統野菜は、復活させることができない。栽培が途絶えかけた伝統野菜が再評価され、栽培が継続されることは、種の保全にもつながる。日本が平成5年(1993年)に締結した「生物多様性条約」では、生物多様性には「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」の3つのレベルがあるとしている。種の減少に歯止めをかけ、「種の多様性」を保全していくためにも、伝統野菜の栽培振興は重要である。また、長年にわたり自家用として採種されてきた野菜の種子の中には、他にはない遺伝子を持つものがあり、病害虫や気候変動に強い品種改良などに利用できる可能性を秘めている。

 

5)里山里海との関わり

 健全な森からは豊かな海を育むうえで欠かせない有機質が流れ出す。土壌や気候など、能登の特性を活かした「能登野菜」の高付加価値化は、化学肥料・農薬の低減による安全、安心な野菜づくりを心がける生産者、就農者の増加につながり、下流や里海への環境負荷も低減する。また、ブランド化による地産地消の推進は、フードマイレージの減少にもつながる。

 

 グリーン・ツーリズムなど、体験型の観光を推進するうえでも、作業時期が限られる稲作だけではなく、品目により通年の作業体験が可能となる野菜づくりは有効である。また、ブランド野菜により、ツーリズム自体の差別化をはかることもできる。またあわせて、交流人口の拡大による環境負荷を回避するため、里山や里海のつながりについて、参加者が感じ、学ぶ場の提供も大切である。

 

<参考文献>

図書・報告書
1)石川県野菜花き研究会(2007)『加賀能登の特産・伝統野菜』

その他
2)能登野菜HP

 

 

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