今回の取材では、平成13年度に研究科を卒業して加賀市にある妙泉陶房に弟子入りして20年、ロクロ師として活躍している新谷洋さんをご紹介します。

新谷さんは、師匠である山本篤先生(当所の研究科「ロクロ型打ち」講師)に師事し修業を始めました。
平成28年には、高度なロクロ成形技術「型打ち」で九谷焼伝統工芸士の資格を取得しています。

新谷さんの師匠である山本篤先生の妙泉陶房は、昭和50年(1975)から九谷焼の素地を製造しています


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この取材では、研修所の卒業生が、何を学びどのように考えて就職しているのかを取材し、研修生やモノづくりを志そうとしている方に向けて、様々なメッセージが伝わる事を目的としています。





-------社会人経験を経て研修所に入学した新谷さんですが、なぜ妙泉陶房を目指したのですか。


新谷さん:研修所のカリキュラムにあった企業研修がきっかけです。成形から絵付けまでを見られる工房で働きたいと思っていたので、魅力的な職場だと思いました。 作家ではないので個人名は出ないですが、職人として実用食器製造に携われていることや、伝統工芸士(※1)の技術認定(成型部門・型打ち(※2))を頂けたことも嬉しく思っています。






技術は、深めれば深めるほどに、作業工程の大切さに気づかされます

 

 

新谷さん:ロクロに座らせてもらったのは、下仕事をしながら3年目位からでした。どの工程にも言えますが、技術はくり返して丁寧に深めていくことで気づく事が沢山あります。今も技術というものがますます魅力的だと感じています。

自分は就職という形ではなく弟子入りなので、分からないことを篤先生や兄弟子の技術や仕事ぶりを見て学びとりました。働かせてもらっている今、恩返し出来ていれば良いのですが。あと、この技術の裾野を広げられたら良いかとも思っています。


-------技術の修得は時間がかかるという事ですね。


新谷さん:そうですね。窯出しをする度に、課題や修正点が見つかります。モノづくりに終わりは無いと感じます。

妙泉陶房にはいって半年位の頃、篤先生に茶道のお稽古に誘って頂いたのですが、その経験が仕事に大変生かされていると感じています。今も通っていますが、手に入らない様な凄いお道具を見せてもらって、触らせてもらえる貴重な機会になっています。展覧会では素晴らしい物を見ることは出来ますが、触れることが出来ないですよね。茶道の経験が、良い物の基準になっている気がします。また、問屋の社長さん所有の骨董品を見せて頂く機会も度々あります。そして、それが技術の目標になっています。


 



 

 

-------なるほど篤先生はそれを伝えたかったのでしょうね。ロクロ師として20年の節目を迎えるわけですが、今後の目標を教えて頂けますか。


新谷さん:まだ挑戦していない仕事はたくさんあります。未知の技術へのハングリーさが原動力になっている感じです。まだ上手になりたい。
そして死ぬまでこの仕事がしたいです。ロクロ師にこだわらず、年齢を重ねてもこの一連の仕事に携わっていきたいというのが目標ですかね。

 



 

 

-------最後に、新谷さんから後輩の研修生にやっておけばよかったと思う事をお伝え願えますか。


新谷さん:社会経験をしてから研修所に入ったので、当時は思わなかったのですが焼物に関するバイトをやっておけばよかったなと思います。就職現場を色々知っておく事や働くという事を知ることも大事だと思います。就職を決める時に自分の基準にもなると思いますよ。



-------そうですね。研修生の内から積極的に色々見て学んで欲しいですね。今日はありがとうございました。


 




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師匠の篤先生は、新谷さんの事を「うちの工房に欠かせない存在だ」と仰っていました。生真面目な性格と、長くやっている茶道の世界から学んだ美意識が技術と所作の美しさも含めて刷り込まれているのだと感じるそうです。

今回、新谷さんは「知らない技術はたくさんあるから、まだまだです」と話してくれました。技術へのこだわりが尽きない謙虚でひたむきな姿勢が印象的でした。


※1 伝統工芸士…経済産業大臣指定の「伝統的工芸品」の製造に従事する技術者で、技術・技法を保持する者を認定する制度。

※2 型打ち…ロクロ成形技術の一つで、薄くロクロ挽きした物を柔らかいうちにレリーフのある型に打ちつけ、それを写し取る技法。難易度が高い技術とされている。

 

 


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