世界農業遺産「能登の里山里海」ライブラリー
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利用保全の取組み

里山保全の取組と生物多様性

絶滅危惧種、希少種の保全活動

1)概要及びGIAHS的価値について

 能登半島は、沖合で暖流と寒流が合流し、海岸線が長く、外浦の岩礁地帯や砂浜海岸、閉鎖性海域である七尾湾、内浦のリアス式海岸など複雑で変化に富む沿岸環境を有していることから、多様な海洋生態系に恵まれている。また山間部では、天然林と人工林が混合し、山間部から海岸部にいたる土地利用においては、ため池や水田、河川、湿地がモザイク状に分布しており、陸水生態系、農地・森林生態系においても豊かな生物多様性が維持されている。そのため能登半島には、毎年多くの渡り鳥が飛来し、その数は300種にのぼると推定されている。

 

 しかし近年、人間活動や開発(第一の危機)、自然に対する人為の働きかけの縮小撤退(第二の危機)、移入種(外来種)による生態系の攪乱(第三の危機)、地球温暖化の影響などにより、生物多様性の危機がいわれている。能登で問題になっている外来種の代表としては、ブラックバス、アメリカザリガニ、ウシガエルがあげられる。ため池の水を抜く池干し作業によりブラックバス駆除に成功している地区もあるが、一方で管理が行き届かず放置されているため池も多い。

 

 外来種の侵入は、半島や閉鎖された池などで強い影響を及ぼすため、希少種を含む多くの生物の生息地である能登のため池での駆除活動は大きな意味を持つ。また、石川県内のイノシシについては、明治から大正期に絶滅したと確認されていたが、近年の暖冬傾向もあり分布が北上し、能登半島にも生息するようになった。

 

 能登では、絶滅危惧種や希少種の保全活動に、地域住民が参加する取組が始まっている。羽咋海岸自然再生事業では、石川県指定希少野生動植物種に指定されているイカリモンハンミョウを保護するため、住民座談会などを通じて、海岸での野焼きを禁止する意義の説明などが行われている。また、希少種に関する地元の意識が高まることで、地域住民が監視役となることも期待されている。

 

2)背景(経緯〜現状)

 石川県の希少野生動植物種に関する保全対策は、昭和51(1976)〜53(1978)年に実施された「石川県の自然環境シリーズ調査」に始まる。平成9(1997)年からは、絶滅の恐れのある動物や植物の種ごとに現状を把握し、絶滅の危険性を分類してまとめる「レッドデータブック」作成のための実態調査が行われ、平成12(2001)年3月に「石川県の絶滅のおそれのある野生生物−いしかわレッドデータブック−<動物編>」と「同<植物編>」が発行された。なお、動物編は平成21(2009)年、植物編は平成22(2010)年に改訂版が発行されている。絶滅危惧T類掲載種のうち、動物・植物ともに半数以上の種が能登4市5町に生息しており、能登は石川県の中でも絶滅危惧種や希少種が多く生息する地域であるといえる。

 

表U-9-1 石川県の絶滅のおそれのある野生生物−いしかわレッドデータブック−掲載種


 カテゴリー区分

動物編
(令和2(2020)年)

植物編
(令和2(2020)年)

 絶滅

5

10

 絶滅危惧T類

90

259

 絶滅危惧U類

118

202

 準絶滅危惧

200

176

合 計

413

647

 

 石川県では、「ふるさと石川の環境を守り育てる条例」(平成16(2004)年4月1日施行)を制定し、特に保全の必要性が高い野生動植物を指定希少野生動植物種に指定し、捕獲や採取などを法的に規制している。同条例では、生息地も希少野生動植物保護地区に指定し、開発などには知事の許可を必要としている。このほか、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」に基づき「国内希少野生動植物種」に指定されている種として、石川県内では6種の生息・生育が確認され、捕獲や採取などが原則禁止されている。

 

表U-9-2 石川県指定 指定希少野生動植物種一覧 (平成24(2012)年3月末日時点)

  施行・告知

 動物

 植物

 平成17(2005)年
 5月1日施行

 ・トミヨ
 ・イカリモンハンミョウ
 ・シャープゲンゴロウモドキ

 ・ウミミドリ

 平成18(2006)年
 5月1日施行

 ・チュウヒ
 ・ホトケドジョウ
 ・マルコガタノゲンゴロウ

 ・オキナグサ
 ・エチゼンダイモンジソウ

 平成19(2007)年
 11月1日施行

 ・コアジサシ
 ・イソコモリグモ

 ・サドクルマユリ
 ・トキソウ
 ・サギソウ
 ・イソスミレ

 平成24(2012)年
 3月30日告知

 ・ホクリクサンショウウオ

 ・センダイハギ
 ・ヒメヒゴタイ
 ・トウカイコモウセンゴケ
 ・イシモチソウ

 種数

 20種(動物9種、植物11種)

 


3)特徴的な知恵や技術

@ホクリクサンショウウオの保全活動(羽咋市)

 ホクリクサンショウウオは羽咋市で発見され、昭和59(1984)年9月に学名が付けられた。昭和63(1988)年には「ホクリクサンショウウオを守る会」が結成され、羽咋市寺家町に増殖池が造成され(平成元(1989)〜2(1990)年)、指定生息地及び増殖池の巡回や生態調査が行われ、保護・増殖がはかられている。

 

 平成元(1989)年には、地域にゆかりの深い生物およびその生息環境を保全・回復することを目的に環境省が選定した「ふるさといきものの里」に「羽咋市ホクリクサンショウウオの里」が選定されている。同会以外にも、柳田老人会や千路町会でも保全活動が展開されており、地域で広がりを見せている。


 
 写真 ホクリクサンショウウオ        写真 生息地                出典:石川県ホームページ

 

Aトミヨの保護活動(志賀町)

 志賀町では、平成12(2000)年から担い手育成型の県営ほ場整備が取り組まれ、平成15(2003)年のほ場整備計画の際には、トミヨを地域の象徴的な生き物とすることにより地域の自然を保全するほ場整備の実施が試みられた。平成16(2004)年には、農事組合法人「トミヨの里」が設立され、鷺池に生息するトミヨの保全活動が行われている。同法人の活動は、地域の団体を巻き込んだ取組へと発展しており、地区内の老人会などの地域の団体と連携し、アシの刈り取りや汚泥の除去も行われている。

 

B外来種駆除の活動(珠洲市)

 珠洲市では、行政と住民が一体となり、外来種の駆除活動が行われている。ため池に侵入したブラックバスやアメリカザリガニなどの外来種を駆除するため、ため池の水を抜き、上下流水路も含めて外来生物の駆除が実施されている。ブラックバスについては寺家ダムを除いてほぼ駆除が完了しているが、アメリカザリガニについては完全に駆除することは難しく、駆除の目処が立っていない。子どもがアメリカザリガニを移動させる可能性もあるため、外来種に関する情報の周知も考えられている。

 

4)生物多様性との関わり

 絶滅危惧種や希少種は、生物多様性をはかるわかりやすい指標であり、また、その保全活動は地域住民にとっても理解しやすく、環境保護に取り組むきっかけとなっている。いしかわレッドデータブック掲載種は増加しており、絶滅危惧種や希少種の現状把握や保全に関する調査研究は課題であるが、ビオトープづくりや外来種の駆除により、シャープゲンゴロウモドキやトミヨの数が回復しているという明るい兆しもある。