「平成十三年に復元された金沢城の菱櫓(ひしやぐら)は、名前の通り平面が菱形になっています。視界を広げて見張りやすくする知恵でした」 「加賀藩初代藩主の前田利家公は、留守中に一段で築いておくよう命じた石垣が二段でできていたので、大層立腹したそうです」  築城の秘密や逸話を散りばめた吉川さんの金沢城案内は、深い知識に裏打ちされていて人を飽きさせない。会長を務める「城と庭のボランティアガイドの会」は国指定史跡の金沢城跡と国特別名勝の兼六園を専門に、交替で常駐し、観光客の求めに応じて案内する。 「まずスケジュールをお聞きした上で、ガイドコースを考えます。お客様の目線を大切にすることが最低限の礼儀と心得ています」

 兼六園は金沢観光の定番中の定番だが、お隣の金沢城公園も人気が高まっている。国の重要文化財である石川門、三十間長屋、鶴丸倉庫に加え、「平成の築城」により菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓(はしづめもんつづきやぐら)や河北門などが復元され、風格ある往時の姿が蘇(よみがえ)ってきたからだ。 「せっかく兼六園を観光されるなら、金沢城公園にもぜひ足を運んで、奥深い魅力に触れていただきたいですね」 「石垣の博物館」と呼ばれる多彩な石垣群も注目されている。隣接する旧石川県庁をリニューアルした「しいのき迎賓館」からの石垣の眺めは迫力満点で、照明に浮かぶ夜の景観が特に素晴らしい。期間限定ながら、幽玄な表情を見せる夜の兼六園と金沢城公園も季節ごとに楽しめる。この秋も「中秋の名月観賞会」「ライトアップ〜秋の段〜」が企画されている。


 平成二十六年度末までの金沢開業に向けて、北陸新幹線の工事が急ピッチで進められている。開業すれば金沢を訪れる観光客は間違いなく増えるだろう。 「お客様が一人増えれば、口コミでその何倍にも広がる可能性があります。だからこそ、良い印象を持っていただけるよう心してご案内しなければなりません」  新幹線工事の進捗を伝えるニュースに接すると、否応なく期待が膨らむという吉川さん。「そのとき」に向け、ますます腕に磨きをかけるつもりである。