「坂本竜馬は二度、福井を訪れています。最初は文久三年、勝海舟の命により、神戸海軍操練所の費用を十六代福井藩主松平春嶽公から借用するためでした。福井藩は明治維新とも深くかかわっていたのです」 藩主松平家の別邸だった名勝「養浩館」の美しい池の畔にたたずみ、幕末の福井藩を語る宮下さんの言葉によどみはない。 当時の福井藩は歴史の表舞台に登場する機会こそ少なかったものの、四賢侯の一人に列せられた春嶽公をはじめ、由利公正、橋本左内、中根雪江など優秀な藩士を輩出し、多士済々の趣だった。 国の将来に思いを馳せながら動乱の世に生きた藩主や藩士たちの熱き魂が、宮下さんの心を揺さぶってやまないのである

 観光ガイドなどを通して福井の歴史を市民や観光客に紹介する福井市歴史ボランティアグループ「語り部」が発足して十二年がたった。現在のメンバーは六十人余り。今春、推挙されて会長に就任した。「メンバーには努力義務として学ぶ意欲、連帯意識、語り部活動の三点を尊重するようにお願いしています」「語り部」たちの知識の奥行きと幅を広げ、話術を磨くため、座学研修会も重ねている。 自身、半年間で五十回以上のガイドをこなす。「おもてなしの心」を大切にして、まずは「ご苦労様」とねぎらいの一言をかけるのが宮下さんの流儀だ。「さりげなくご希望を探り、押し付けがましくならないよう心掛けながらご案内しています。お住まいの地と福井とのゆかりをお話しすると、親近感を持っていただけますね」


 福井を訪れる遠来の観光客は中京や関西からが中心で、関東からはまだ多くないのが現状だ。「大切なのは地理的な距離ではなく、時間的な距離。その意味でも北陸新幹線の福井延伸が早く実現し、関東のお客様が増えることを期待しています」 福井の魅力をもっともっと多くの人に知ってほしい。次第に熱を帯びる口調から、そんな願いがひしひしと伝わってくる。