ホテル黒部に嫁いだ昭和44年、集中豪雨で黒部川が氾濫し、宇奈月温泉は一時、源泉の湯が使えなくなった。各旅館はやむなく沸かし湯で急場をしのいだものの、湯質の違いは明らかで、天然温泉のありがたさが身にしみたという。 「源泉が90度以上あり、湯量も豊富。しかも透明度が高く、サラリとしていて、肌がつべつべになるのが宇奈月の湯の特長です。黒部峡谷やトロッコ電車だけでなく、湯の素晴らしさをもっとアピールしたいと思っているんですよ」 「つべつべ」は「つるつるすべすべ」を意味する地元の方言である。

宇奈月温泉かたかご会は平成18年、自慢の湯を活用したオリジナル入浴剤「つべつべ宇奈月」を開発し、人気商品に育て上げた。 「かたかご会は宇奈月温泉の広告塔を自負しています。商品開発だけでなく、全国各地に出かけPRにも努めています。」 昨秋には、トロッコ電車に女将らが乗り込み、ガイドを行う試みに挑戦し、宿泊とのパック企画が好評を博した。今年も紅葉が楽しめる11月末まで実施中だ。


かつての宇奈月温泉の宿泊客は関西圏が中心だった。上越新幹線の開業後は関東圏が増え、東海北陸自動車道が全線開通した今年7月以降は中京圏も急増している。交通アクセス改善の集客効果が歴然としているだけに、北陸新幹線の開業にかける期待は大きい。 「女将としての心構えは、お客様に『また来るよ』と言っていただけるおもてなしです。開業効果を十分に発揮するには、リピーターが増えるよう、黒部峡谷鉄道と宇奈月温泉が協力して、新たな魅力付けに取り組まねばなりません」 物腰はしとやかながら、行動力抜群の女将さんは、これからも東奔西走の日々を覚悟している。