ホテル百万石は平成19年、創業100周年を迎えた。客室数わずか8室の宿を、全国に名がとどろく地位に押し上げたのは三代当主・吉田豊彦氏の手腕による。その血を引く後継者として、大きな節目を機にあらためて噛みしめるのは、「地域に対する責任」である。
「父は山代温泉全体の浮揚にも心を砕きました。温泉旅館を取り巻く環境が厳しさを増している今こそ、山代温泉や加賀温泉郷が足並みをそろえて魅力を高め、発信していかなければなりません」



加賀温泉郷は小松市と加賀市にまたがる4温泉(粟津・片山津・山代・山中)の総称である。日本最古の温泉とされる粟津をはじめ、その歴史は非常に古く、豊富な湯量と個性豊かな泉質に引かれ、歴史上の高名な人物も数多く訪れている。
戦後の高度成長期には「関西の奥座敷」といわれるほど関西・中京圏の団体客に人気を博したが、近年は個人や小グループのニーズに対応した施設、サービスの充実を図り、新しい顧客層も増えてきている。
夫で、ホテル百万石館主の吉田久男氏が会長を務める加賀温泉郷協議会は現在、「加賀四湯博」と銘打った共同キャンペーンを展開中だ。4温泉がそれぞれの個性を打ち出しながら、一体になって誘客を図る試みである。
「皆さんの努力により、若い世代にも加賀温泉郷の魅力が伝わり始めている手ごたえを感じています」


日本旅館国際女将会のメンバーとして、10年以上前から毎年のように海外に赴き、見聞を広めてきた。全国の有名温泉地にもたびたび足を運んでいる。
その都度、思いを深くするのは、石川の食材の素晴らしさだという。 「これほど山海の幸に恵まれているところはありません。北陸新幹線が開業すれば、東京から加賀温泉駅までは2時間半ほど。気軽に本物のおいしさを味わいにきていただきたいですね」
そんな期待と夢を、にこやかな笑みに包んで語る気品ある女将さんである。